綿

外を歩いていたら、アスファルトの上に足長蜂が落ちていた。さあどうしようと集まる蟻が周りを黒い縁取りを作っていた。
いつの間にか植木のあちこちを脱け殻だらけにしていた蝉も、ひっくり返って落ちているのを見かける。そんな蝉の大きな羽を運ぶ蟻は大変な力持ちだなといつも思う。
庭の鬼柚子はまだ緑。今年はそれほど大きくなく、直系20センチくらいで、一つだけ残す。この所小さく数も少ない。
 
季節は少し進む話だけれど、この間ふと、明治時代の思い出が書かれた岡本綺堂のエッセイを読み返していたら、赤トンボと入れ違いに大綿が沢山飛んだと書いてあった。季節が寒くなり寂しさが感じられる季節だからか、大綿はちょっと悲しいようなそんな気分になる虫らしい。おそらくアブラムシであろうと思う。岡本綺堂の時代(明治生まれ大正時代の著)でももう絶えてみないとのことだ。岡本綺堂が子供の頃遊んだのは横丁は昔の五番町と元園町の境目、私も馴染みのある界隈から近いので、このあたりでもそういった大綿が飛ぶようなことがあったのかと思う。エッセイにはこのあたりにどんぐりがたくさん落ちて、みんなで飽かず拾って遊んだと書いてあった。大綿が飛ぶのを見つけると子どもたちは「大綿来い来い飯食わしょ」とはやしてたもとで打って落としたという。以前読んだ別の話ではコウモリを取る時も「蝙蝠来い」とはやしながら草履を投げたと書いてあった。何かはやしながらするというのが今は無いなと思って読んだ。
飛ぶアブラムシも大綿と呼べばなんとなく可愛らしい。
もし見つけたら大綿来い来いと言ってみようかと思う。