本阿弥光悦の大宇宙

青山を出て、東京国立博物館の平成館で開催中の特別展「本阿弥光悦の大宇宙」に行きました。

みんな大好き光悦。私は鹿の絵柄の笛筒が好きなんだなあなどと思いつつ、展覧会内容を知らずに出かけました。国立博物館らしい広域な展示で、本阿弥光悦自身の坐像から印影、家系図など基本情報から始まり、刀の細工書状など資料なども充実。扁額なんかはもしかしたら初めてみたかも知れません。展示のバラエティーが富んでいるので、みやすいです。会場も広いですし。

謡本がさまざま並んでいるのも良かったです。雲母刷の謡本が私は好き。上品でいいじゃないですか。謡の内容と絵柄を考えてみたり、うっすら文字の下に刷られている雲母の模様も美しくいいものだなと思います。

謡本もいろんなバージョンがあるなあと思いつつ、それぞれの謡本の題をみては「あーこれもちゃんとやらなきゃなあ」とちらちらと宿題を思い出させられるような気分もしたことは正直な感想です。

蒔絵コーナーももちろんあり、すごいものばっかり並んでいました。蒔絵も好きなジャンルなのですが、みに来ている人もみんなそうらしく、いっぱい並んで見ていました。綺麗だもんね。私は硯箱がやっぱり凝っていていいなと思いました。手元で楽しむものだからか、小さく凝っているものが多い硯箱。じっくり見て楽しむジャンルなのでしょう。蓋裏を除くとそこに生き物が!とか発見が多いので楽しいです。

自分で意外だったのが書状コーナー。見て「素敵!!!」と興奮するような感じとも違うのですが、見ると楽しいというか、見ていられる字なんですよね。面白いなあと思いながら見ていると、次のコーナーにとってもいいものが。

次のコーナーで展示されている花卉鳥下絵古今集和歌巻。これが下になっている絵と、上に書かれている和歌の文字の組み合わせがとても良くて、文字をただぼーっと見ているだけでも楽しい和歌巻です。この人の文字、それほどすごく好きだとは思っていなかったのですが、でも、見ているだけで楽しいというか楽しめる文字だなあと思います。独特のリズムがある書き振りのせいなのでしょうか。その秘密がわからないなあと思いつつ、疲れた時など、ぼーっとこれだけ見ていてもいいかなと思う和歌巻でした。

みんな大好き(再び)鶴下絵三十六歌仙和歌巻もたっぷり展示でとても嬉しかったです。下に描かれている鶴はもういうまでもなく、さまざまにリズムを持って描かれていて、羽の部分や胴体の部分などそれぞれの場所によって違う表現がされているのも、自然に見る人が軽さや音といった量感のようなもののギアを変えてみることができるようになっていますし、場所によっては鶴のスピードや羽ばたきの速さ、混んでいる鳥特有のあの雰囲気などがあったと思えば、ほとんど羽ばたかずに上昇していく場所もありで、見どころがあります。そしてやっぱり文字。冒頭の人丸(麿)の人は追加??という感じから始まりますが、やっぱり見ていて楽しめる字です。こんなだったかなと思いつつみました。その場でぼーっとみたり、何度も繰り返しみたり。この日、ほとんど人がいなかったので、たっぷりみることができて幸運でした。

松山花卉摺下絵新古今集和歌巻も同じように絵に支えられた文字をたっぷり味わうことができる和歌巻。今回思っていたより、和歌巻の素晴らしさ、そして光悦の字が結構好きかもしれないという発見がありました。配置とか、掠れ、強調や細い文字の並びなど、絶妙なのだと思います。すごいセンスなのだろうな、と想像。

この日、国立博物館に行きたかったのは、もう一つ、本館で能登で発生した地震の募金をしたかったから。本館入り口のところに地震の募金と博物館への募金のはこがあります。

募金をして本館見学に。本館は毎回すごい物量だなと思います。全部を真剣にみていると倒れてしまうので(特にこの日は根津美に行った後なので)まずは目当ての長谷川等伯の有名すぎる屏風、松林図屏風を目指します。途中で酒呑童子の扇面画があって、ちょっと見てしまいましたが(酒呑童子の頭が飛んでいって頼光に兜に噛み付くシーンが見たかった)、まずは体力が残っているうちに松林図屏風へ。

等伯さん、能登が大変なことになっちゃったよ。と思いながら(等伯は七尾出身。確か)見ます。いつも思うのですが、思っていた記憶の中より松は少ないんですよ。みると松がずっと霧を吹くんだ空気の中に続いている印象があって、松をたくさんみた記憶が残るのですが、実際はそうでもない。

松と空気。それが描かれている屏風。他には遠くはるか遠いところに山がうっすら。それ以外に地面も微かに描かれていますが、後は松と空気。水墨画で空気の湿り気、ひんやりとした静かな空気の動き、ゆっくり動く霧が描かれるという不思議さ。水墨画の優れたものは空気を描くことが多いけれど、これも至宝の絵画の力なのかなあと思います。

辛いことが多い時期に描かれた絵だというけれど、絵の中にある強い気持ち、高いところを狙うようなそんな空気が張り巡らされているようなそんな静かなしまった気分もある絵だなと思います。

せっかく本館に行ったので、ざっと体力の残りを使って、日本のさまざまな美術をみる。いつも思うけれど、こんなにたくさんさまざまなものを見られる本館はいいな。と思います。まだ一月半ばなので、新年にちなんだ龍の模様のものがあちこちにありました。

体力がもうゼロになりそう。と思いつつ、せっかくなので東洋館もちらっと見ました。ここはここで独特の雰囲気とゆったりした空気があるので好きなのです。が体力がゼロに。

お土産におせんべを買って帰りました。せっかく上野に行ったので、他にも行きたいところがあるのだけれど、あまり欲張らないようにしなければ。残念。