知らない人

朝駅まで歩いていると、前を歩いている小柄な女性が小さなリュックをしょっていた。私が持っているリュックと同じブランドの違うタイプのリュックだなと思う。特徴のあるブランドなので、すぐわかる。リュックだけでなく、なんとなく、あ、自分が持っているのと同じだとか、わかると、同じものが好きなのかなと思ったりする。

知らない人といえば、以前何で読んだか思い出せないのだけれど、時々思い出す話がある。小さな話で時々思い出す話というのは、いくつかあるのだけれど、その中の一つ。銀座百点で読んだのかなあ。それとももっと違うものだったか。何かの小冊子に書いてあった、エッセイのように始まるお話だったと思うのだけれど。ネットで発表された文書だったかもしれない。

ある女性著者の書いたエッセイのような創作だったと思う。その人は芝居をよく見るといったそういうのがバックグラウンドにあったようななかったような。とにかくどこなのエッセイの連載だったと思う。連載だから、その人について、少し連続してなんとなく知っている状態で読んだと思う。

その中の一つの回でそこだけ覚えている。その人がある喫茶店のようなところに入るところから始まる。ふと目を店内に移すと、自分より少し年上と思われる女性が一人が座っている。なんとなく親しみを感じてみていると、ふと、その人の持ち物に目がうつる。自分も好きそうなカバーの手帳か文具か何かを持っていて、自分もああいうの使ってみようかなあなんて思ってみている。そうすると次々になんだか自分もああいう年になったらああいう服を着るのかななんて思ってみていると、次第に、あれは未来の自分の姿、今より年を取った自分だと思うようになるといった内容だ。なんとなく「そうだ」とも「そのように見える」ともとれる書きぶりで穏やかなSFのようでもあり、普通のエッセイのようであり面白かった。その女性は著者より先に店を出る。その女性を見送りながら「さようなら私」とそっと心でつぶやいてその文書は終わる。

その話を思い出すと、もう一つ、女性が一人でお店でくつろいでいるというエッセイを思い出す。それはおそらく銀座百点で読んだと思う。その女性は銀座界隈の歌舞伎座帰りに入る甘味処で窓辺の静かな女性に目を止める。今見てきたばかりの歌舞伎をもう一度楽しんでいるかのようにパンフレットを少しうれしそうに眺めている女性。その女性に自分も、その気持ちがとてもわかると心を寄せる話だ。やはり同じように女性一人で、ある程度の大人になって、静かに自分を楽しんでいる様子を慕わしくおもうような静かな書きぶりで印象に残っている。パンフレットを読む女性はそこのその人も好きなあんみつかなにかの品を食べていて、話しかけたいような、もう二度と会えないのが残念なような気持ち、仲良くなれそうだななんて思ったり、そっと思う様子などが好みや行動で思われるのが、そういう気持ちをだれもが少しだけ持ったことがある、そんな気持ちを掬い取っていて印象に残ったのだ。たまに思い出す。自分もそんな気持ちになったことがあるような気がする。そして、一人で静かに街で過ごすのが好きだからというのもあると思う。そんな気分を反芻できるからだろう。