そのコミュニケーションの取り方よ・・・

「おだまり、ローズ」を読んでいる。

この「ローズ」は1899年生まれ。英国の貴族のお屋敷に「夫人付きメイド」の役職で就職し、暮した人。いくつかのお屋敷奉公を経て、一番長く、おそらく最後の主人となるレディー・アスターとの日々を書いたのが「おだまり、ローズ」。翻訳が難しいのだろうなあ、特にユーモアを含んだ部分。と思いつつ読む。

今のところ、当時のお屋敷奉公、そのお屋敷に住んでいる人々の暮らしの運営など興味深いと思いつつも、それほど人間関係には「面白さ」を感じていない。まだ本も前半だからかな。

それにしても、当時のお金持ちの麗しい生活はこんな風に多大な人手で支えられているからなんだな。とは思う。一部の隙もない装いだとかそういったものは、こうして全力でささえられてこそなのだろう。とにかく、この貴族やお金持ちたちの生活を支えるのは「会社」といっていいぐらいの組織なのだ。

でもって、たとえば著者は夫人つきメイドなので、一人(あるいは二人)につきっきりで服装を整えている。日常的に5回ぐらい着替えがある人だと大変だな。と思う。おつきメイドが全部ではないけれど、ドレス類(と狩猟、スポーツ、普段の服装)だとかはとにかく毎日洗ったり、染み抜きしたり、アイロンかけたりしているらしい。

読んでいて今のところ、この「ご主人様」のレディー・アスターについて好きになれない。面倒くさいな。ほんと。でも、そこが戦いがいがある相手ってことなのだろう。

レディーアスターの娘は大変な美貌(ポートレイトが掲載されている)。最初はこの娘のほう、ウィシー嬢つきメイドで就職している。就職するとき「レディー・アスターのおつき」でどうですかとみんなに言われて断っている。「めんどい!」と。やっぱりめんどいのではないか!(レディーアスターのお付きはやとってもやとってもどんどんやめていく。なので、この著者がおじょさまのお付きとして就職した後、募集しても募集してもやめてくしで不便なので、娘からお付きを「あれは使える」と取り上げる形で自分のものにしている、レディー・アスター。)

というわけで、お付きが長続きしないでおなじみのレディー・アスターにお付きとして長年仕えた根性の持ち主、ロジーナ・ハリソンの回想記。時々ヨークシャー魂でなんとか対応みたいに書いているが、ヨークシャー魂だけで対応できる相手とは思えず、なかなか仕事ができるローズのこの有能さはお母さん譲りなんだろうな。と思ってます。このローズのキャリアプランの礎を作ってくれたのは、なかなかの稼ぎ手でやりてだったお母さんだもん。

長年つかえた主人なので、著者はこのレディーアスターに愛着というか愛情みたいなものを感じているらしい。が、この本のなかで、よくも悪くも書いていないところは、なかなかのものがあるな。と思う。レディーアスターに対しては控えめに「きまぐれ」と書いているけれど、これ、たぶん気まぐれなんじゃないと思うなあ。

こういうコミュニケーションしか取れない人なんだと思うよ。迷惑だけれど。立場上、それが許されているから(子供のころ、親がアメリカ南部で鉄道で大当たりしている。まだ奴隷制度があったころのアメリカで。)というのと、なんていうか、そういのを望んじゃう人なんだろうあな。と思う。

レディーアスターは立場上断れないお付きメイドに「Aを持ってきて」と命じて持ってこようと出かけると、それじゃ「満足できなく」なってしまう人だ。

そこで「A」を持ってきたメイドに「私はBって言ったじゃない!」と切れちゃうような人なのだ。そして「私がAって言うわけないじゃない。いうことを聞かない、ダメなやつめ。」的なことを言っちゃう。もうそこまで言って相手を気つけても、なお満足できない人なのだ。で、著者はだんだんコツをつかんでもう大げんかをする。取っ組み合い(レディーアスター側から手じゃなくて、最初に足が来ることもあるぐらいだから、相当だと思う)に発展しそうになるぐらい激しく喧嘩して、やっと「満足」が来るような人なのだ。そこまで強烈にしないと「実感」できない人なんだろうねえ。迷惑。

というわけで、ものすごい大げんかや小喧嘩をやり合う相手として長年仕えたおかげで、レディーアスターの家族(特に夫)にはなかなか感謝されていたようだ。そういうエネルギーが夫に向かなくなるから。ほんと迷惑。

そんなあれやこれやをやり通した、お付きメイドの「なかなかやっただろう」という自負と(本来の仕事内容も結構すごいと思う)、そのころの裕福な家の中で暮らす従業員の暮らしといったことが描かれている本。従業員側の暮らしのほうはなかなか面白くかけているなとは思う。そして、レディーアスターみたいな主人は面倒だよ。

強烈に自分に対する注目、相手が心を全部自分にずっと向け続けていないと、愛情を実感できない人。なのかな。たぶん。それにこたえてくれる人に出会えてラッキーだった人、という印象も残った。愛情を強烈に求めるけれど、その求め方のバランスがものすごーく悪い人。だから、間接的にお付きメイドの母親にものすごく贈り物をしちゃったりする。でもまあ、二人は心が通っていたのだと思う。どっちも、なんとなく、わかっているところもありで、幸せな二人だったんだな。と読後は思う。