あらあらかしこ

「ふるぎぬや」が終わって寂しいなと思っていた波津 彬子さんの新しいシリーズが発売されていた。嬉しい。「あらあらかしこ」という本で、早速買って読む。相変わらずだけれど、私はこの調子の波津 彬子さんの話が好きなのだ。今回は、伝聞スタイルでちょっと不思議な話や出来事を楽しむことになっている。

いつも通り、ちょっと普通ではなさそうな、不思議なことがへっちゃらな人物として、美青年の作家先生が登場。それにいわばワトソン役となるこちらも美少年ぽい書生の青年が中心人物。不思議なお話は、これまた謎の差出人から作家先生に送られてくる手紙の中で、各地の不思議な話として紹介される。作家先生は随筆の中で、この謎の差出人の手紙をそのまま紹介しているという設定になっていて、書生に小説やエッセイの清書をさせる関係で、この不思議な手紙を書生君も読む形となり、読者も書生君と一緒に、不思議で魅力的な差出人とその人が書いてくるちょっとした不思議な話を味わうことになる。

差出人は誰なのか、女性らしき書き様、文字ではるけれど、果たして人なのか、なんなのかさえわからない。いつもやってくる封書の裏には差出人については何も書かれておらず、真っ白のままなのだ。手紙の最後は「あらあらかしこ」で締めくくられているから、女性らしいのだけれど・・・。

それにしても、最近の手紙で「かしこ」と書く人も見ない。ましてや「あらあらかしこ」と書く人はいるだろうか。本文との釣り合いが取れないと書けないなと思う。この話、「あらあらかしこ」の中の手紙も候文だ。明治から大正ごろの設定なのだろうか。

謎のちょっと魅力的な差出人は各地を旅してまわっている。なぜ旅をしているのか、旅なのかさえわからないのだけれど、手紙の中で、今はどこどこにいる、そこでこんな話を聞いた、と滞在地で聞いたちょっと不思議な話を紹介し、それではまた、あらあらかしこと手紙を締め括って話は終わる。手紙で伝えてきているという体裁だからか、お話はあっさりしている。各地の昔話の紹介のような感じで、面白い。

そこだけでは話にならないので、その外側にちょっと謎めいた不思議な作家先生と、何やら訳あり風の書生君、その周りの先生の担当編集者や、友達などなどが絡んでくる。外のお話の中心の謎としては、今のところ先生は何者なのか、と、書生君の訳ありのわけとは何か。というところだろう。そして先生は何者なのか、の中には「あらあらかしこ」の相手は一体何者なのか、も含まれている。波津 彬子さんの作品なので、平気で不思議な猫を飼い、不思議な「あらあらかしこ」と付き合っている作家先生は、ただものではないのだとは思うのだけれど。「ふるぎぬや」と同じように最後まで明かされないのかもしれない。それもいいなと思う。はっきりしない方が、話がいつまでも閉じなくていいような気もする。不思議な雰囲気があって、その不思議は「実はこうなのだ」「これはこれこれなのだ」と説明してしまわないほうが、綺麗だなと思う。不思議は不思議なまま、すっきりしないのもいいものだ。