ちょっとこい

ちょっとこい、ちょっとこい。

コジュケイが遠くの山の中で鳴いている。

ちょとこーい、ちょとこーい。

「ちょっとこい」そう聞きなすのだと聞いたときは、あーなるほど覚えやすいと思ったものだ。その聞きなしを知らない子供のころは、ただ、ああいうなき声がする。と思っていた。実際は「ちょっとこい」より「ちょとこーい」に聞こえる。

 

午前中、仕事がなく、午後になって仕事に出かけることにする。

午後の暖かいうららかな日。家を出て駅に向かう途中に様々な鳥のさえずりが聞こえる。鶯がのんびりと鳴く。人通りがない道を歩いていると、なんだか夢のような気がするなと思う。なんて平和なのだろう。これからトラブルばかりの困難が多い仕事に行くとは思えない。なんだか夢のようだ。どっちがといえば、仕事があるあっちが。と思う。

こっちが本当であっちが夢なのではないか。なんてそんな気がするけれど、どうかなあ。どっちが胡蝶でどっちが人間か、といえば、たぶんこっち(春)のほうが胡蝶かな、なんて思う。

では、人間が見ている夢が夢のほうか、胡蝶が見ている夢のほうが夢か。

まあ、これから人間のほうにすぐ行っちゃうわけだけれど。と思いながら、それでもあんだか不思議なほど平和でいい気分の世界だなと思う。

駅に行くと、ちょっと遠いところでホオジロが「一筆啓上」と鳴いている。ほんとにこれから人間の世界に行くとは信じられないと思いながらその声の繰り返しを聞く。